これのつづき






「政宗さま」
揺り起こされて政宗はうう、とふとんに顔を埋める。朝が弱いのだ。昔からどうやっても治らない。冷え性なのが悪いのかと思ってしょうがを試してみたり、養命酒を飲んでみたりしたこともある。最近はなんだっけ、寝覚めのよくなるサプリを小十郎が買ってきてくれて──「政宗さま!」
やっと起きた。ばっとうわがけをはぐ。普段雑魚寝をしているふとんじゃなくて、ベッドの中だ。ちょっとたばこのにおいがするのは、小十郎がたばこを吸うからだ。

五日前の夜、同居人のひとりが猫にかかった。そういう表現しかしづらい。慶次だった。猫耳が生えたよ! とご機嫌で帰ってきて、次の日は元親に。次に佐助、 ここにきて五人のヤローは顔をつきあわせて相談した。触るとうつる。慶次の耳には元親が触ったし、元親のしっぽが佐助の二の腕を叩いた。だから触らなければいい。 でも残念ながら、佐助はその日の夜の夕食の当番だった。相方は幸村で、もちろんうつった。
ひとり残った政宗は絶対に自分だけは生き残ってやるとばかり、小十郎がひとりで生活しているはなれにやってきていた。普段五人もうるさいのが揃っているので、だだっ広い母屋を五人で使い、そもそも家主であるはずの小十郎が離れを使っている。竹藪の間に小さな獣みちみたいな階段があって、離れと母屋はそこを行き来する。歩いて一分もかからない。すぐそこだ。だから生活には困らない。そもそも離れにも生活するための設備はちゃんとあるのだ。でなければ小十郎はここで暮らせない。
自分の枕を持って鬼気迫る表情で離れのドアを開けた政宗を、小十郎はどこかうれしそうな顔で迎え入れた。この守り役は自分に甘い、 政宗は小十郎がいれてくれたお茶をすすりながら思う。同居人四人へあれこれ物言いをつけているが(自己管理がなっていないとかなんとか)、しかしそう言う言葉の端は跳ねているし、いつも厳しい目がちょっとふわっとしている。本職に間違われるような顔立ちの小十郎には似合わない表現かもしれないが、なんていうか「ふわっとしてる」としか表現がしにくい。きっと命知らずの慶次あたりなら「片倉さん、怖い」とでも言っただろう。
そんなわけで、政宗は小十郎からベッドを譲られて昨日安らかな眠りについたわけだった。小十郎はソファで寝るといっていた。マットレスに羽毛が入っているし結構大きいので、確かにあれは寝心地がいい。余談すぎるが。──やっと開けた目をこすると、まず窓の外を見る。まだ暗い。なんだよ、 そう不平を言おうとした目の端に、なんだか余計なものが映った。ぱたん。無印のごくシンプルなベッドカバーを何かが叩いている。ぱたん。見覚えがある。なんていうか、なんていうか、あれだ。言いたくない、認めたくないが、元親に生えていたのと似ている。
「…what' the hell…?」 頭に手をやる。なんだか得体の知れない柔らかい感覚がある。髪の毛じゃない。政宗の髪の毛はこんなにふわふわしてない。
「政宗さま。お気を確かに」
もう絶望とかなんとかそういう言葉を全部尽くしてもこの気分は表現できないだろう、と政宗は思った。情けなさ過ぎていっそ泣けてくる。思わず左目が潤む。うっ。
「こじゅろう…」
なんだか舌が回らなかった。更に情けなくなって、自分の異変にいち早く気づいて起こしてくれた守り役の顔を見る。はっと息をのむ。
彼の頭の上にも何かあった。ぺたっと半ばから折れていて、グレーと白の混じった、 頭の中で答えが出た時、思わず政宗は
あっ、猫耳。
と声を出していた。

20110223-0304 
しつこくにゃんにゃん^◇^ 筆頭と小十郎はスコティッシュフォールド!